欧州最大級の家電・テクノロジー展示会「IFA 2025」が9月5日から9日までベルリンで開催され、世界中から約22万人が来場した。会場には「AI×スマートホーム」「サステナビリティ」「循環型経済」といったキーワードが随所に掲げられ、次世代のライフスタイルを示す最新トレンドが集結。中国・韓国勢をはじめとするグローバル企業が強い存在感を示すなか、AIが家電を最適化してエネルギー使用を削減する事例や、再生可能素材を活用した循環型デザインの技術が次々と披露された。サムソンやLGによるスマート家電、MieleのAI調理家電、Neura Robotの認知型ロボット、さらにはリサイクル可能素材Papticまで、暮らしと環境の両立を目指す革新は鮮烈だ。 本記事では、こうしたIFA 2025の現地で見えた革新的な取り組みや、世界の家電・テクノロジー業界が描くサステナブルな未来像を詳しく紹介していく。
欧州最大の家電・テクノロジーの展示会であるIFAが9月5日から9日にベルリンで開催され、世界中から22万人が来場した。「AIが最適化するスマートホーム」「エネルギー最適化」「循環型社会への挑戦」といったグローバルトレンドが明確に打ち出された年となった。グローバル企業だけでなく、欧州での認知を高めたいアジアや北米のスタートアップも数多く出展し、海外企業と提携を検討する日本企業には、最新トレンドとパートナー候補を知る好機となったといえるだろう。
今年のIFAには49カ国から約1800社が出展したが、そのうち中国企業が約700社、韓国企業が100社以上を占め、中韓企業が強い存在感を見せつけた。約16万平方メートルの広大な会場に広がる全分野で、中国企業は最新の技術を紹介していた。さらにサムソンは正面入口から一番近くに最大ブース、LGは北入口からすぐに大きなブースを設け、「AI×スマートホーム」のコンセプトを鮮明に打ち出した。スタートアップが集まるIFA Nextエリアでも韓国政府支援のスタートアップの合同出展ブースが複数設けられ、4分の1を韓国企業が占めるなど、企業層の厚さが感じられた。
ブランドスローガン「ライフ・イズ・グッド (Life's Good)」を掲げるLGによる、AIスマート家電のブース
2025年のIFAのキーワードは、基調講演でも語られた「AI×スマートホーム」「サステナビリティ」だろう。AIが家電のオペレーションを最適化し、水や洗剤、エネルギー使用量を最適化することで、環境負荷も減らせるということが各ブースでも強調された。 IFAには一般人も参加して商品を体験できるが、同時に1500人以上のインフルエンサーが集められ、会場内のスタジオから最新の製品について次々に発信がなされた。クリエイターのためのプログラムも多々設けられ、各社のインフルエンサーマーケティング重視姿勢が見て取れる。
独ブランド・Mieleのエグゼクティブダイレクター、マーカス・ミーレ氏による基調講演では、AIとスマート家電がどう私たちの生活を変えるかがテーマとなった。同社はすでにAI家電を販売する。なかでも、オーブンの中に入れられた食材と条件をカメラとセンサーで読み取り、最適な温度加減で料理を作れるスマート家電が、「おばあさんの味より美味しく料理できるか?」と、たびたび問いに上がった。トラブル対応の場面でもすでにAIエージェントが使用されるが、同社が開発を指すのは、機器の故障や不具合を事前に防ぐため、家電自体の状況を継続的に分析し、故障を防ぐ最適な使い方の提案、警告機能だという。さらに、白物洗濯時に色物を入れるなど、誤った使い方に対して洗濯機が警告を発するというような制御を家電ができるようにすることだ。
ドイツMieleの創業者一家出身でエグゼクティブダイレクターのマーカス・ミーレ氏
これらの構想はすでに現実になってきている。家電メガブランドでは、AIによる各プログラムの最適化というだけでなく家電・ソフトウェア同士が連携し、最適なライフスタイルを提示すると言う段階まできている。 たとえばサムソンではAIホームの構想が打ち出され、IoTでスマート家電が連携し、ギャラクシーAIがパーソナリゼーション、健康管理、エネルギーの最適化を実現する。家庭での状況をAIが分析し、最適な使用法やトラブル解決法を提示するのだ。LGでは音声認識AIホームハブ「ThinQ ON」がデバイスを繋ぎ、「ThinQ AI」が家電の使用状況や生活スタイルを分析し、最適な睡眠、空気環境、エネルギー消費が提案され、故障の予兆状態が提案されるようになっていた。
もう一つの基調講演は、スウェーデンの家電メーカー・エレクトロラックスCEOのヤニック・フィーリング氏によるもので、「サステナビリティ」がテーマとなった。同社は2030年までの「気候中立」を目指し、事業活動から排出する炭素量を2015年比で97%削減を目指す。工場を効率化し、エネルギー源を再生可能エネルギーに変えて、GHGプロトコルのスコープ1および2の炭素排出量を急速に減らす。一方で、スコープ3のバリューチェーン全体からの炭素削減を目指し、サプライヤーからもデータ報告を受けて変革を進めているという。一方、カーボンフットプリントの95%は製品の使用からもたらされるため、消費者の行動変容が重要になる。その後押しも目指し、エネルギー効率が非常に高い製品づくりを進めるが、それにはAI活用による最適化が鍵を握る。
スウェーデンのエレクトロラックス社・ヤニック・フィーリングCEO
世界中で温室効果ガス(GHG)の削減に向けた要請が高まり、脱炭素経営が求められている。そんななかで欧州連合(EU)では循環型経済を推進するための規制整備が進む。域内の家電メーカーはすでにエネルギー効率と耐久性が高く、リサイクルと修理可能な製品づくりが義務化されており、企業はすでにリサイクルのための回収・処理について責任を負う。しかし、2026年からは保証期間終了後も製品を修理できる体制づくりを義務化されるようになる。そのため、家電修理に関連した業者が合同で出展していたほか、古い機器をリサイクルし、リサイクル素材で修理しやすいモジュール型の家電のみを作る独企業Shiftがその製品コンセプトを紹介し、新製品の事前注文を受けていた。 今年のIFAでは循環型経済を推進するCradle to Cradleという独のNGOが公式パートナーとなり、家電メーカーによる循環型の取り組みの可能性が模索された。たとえばキヤノン独工場が古いプリンタを回収・解体・洗浄し、元の素材を90%活かして製品を作った実例がベストプラクティスとして紹介された。同団体のパートナー団体Cradle to Cradle Production Instituteで循環型製品の規格と認証を管理するジー・カイ・チョン氏によると、製造業はサプライヤーが多岐に渡り、複雑なため、認証取得にそれほど積極的ではなかったという。しかし、持続可能性情報に関するデジタル製品パスポートなど、さらなる規制強化が予想されている。今後は、業界で協力しあい、製品のライフサイクルを通じた取り組みが業界として求められるようになる。
廃棄された家電で作られた約1000kgのロボット型オブジェ。ドイツでは毎日90分間に同量の家電・電子機器が廃棄されているという。 ©︎IFA Management GmbH
サムソンからはAI家電がIoTで連携しあい、ソフトウェアと組み合わせて、最適な家電の使い方、最適な暮らしが提案されるスマートホームのコンセプトが示された。
サムソンが正面入口から近い最大ブースで打ち出した、「AIホーム」「スマートホーム」のコンセプト
ギャラクシーウォッチをつけて寝ると睡眠パターンが自動的に取得・解析され、それに合わせてテレビやエアコン、照明などが最適な状態に調整されるようになるだけでなく、適切な睡眠のあり方をAIが提案する。AIカメラのついた掃除ロボットがペットの状況を確認し、さらにスマートタグをペットにつけることで運動量を判断する。そこから散歩の必要性とその最適ルートがアプリで提案され、そのままアプリ上で散歩を家族に依頼できるようになっている。ほかにも、電話がかかってくると、騒音源となる掃除機が自動的に止まり、AI冷蔵庫のドアに組み込まれたディスプレイなどで電話に出られるというように、家電同士が連携して複数目的に使えるようになっている。さらに、遠くにいる家族の家電の使用状況から、その状況も遠隔で確認できるというように、家電から取得したデータをソフトウェアと組み合わせて活用し、次々と新たな使い方ができるようになっている。 さらに独自に開発したセキュリティプラットフォームKnoxのチップを製品に搭載し、オンデバイスAI型にすることで、データセキュリティを高める。一つの家電がハッキングされても、他の連携デバイスのKnoxはデータをロックし、情報を守れるようになっているという。「データ保護意識が特に強いドイツで、連邦政府にKnoxは採用されているほどのお墨付きです」と担当者は語った。AIを搭載した機器のビジネスでの使用も提案されていた。
ヨーロッパではデータ保護意識が強い。サムソンのオンデバイスAI、Knowセキュリティはその要請にも応えられそうだ
さらに私たちの生活を大きく変えるものとして、「ロボット」の活用がIFAでは提案されていた。ドイツで2019年に設立されたNeura Robot(ノイラ・ロボット・独)は、AIで視覚・聴覚・触覚情報を解析し、タスクをこなせる認知ロボットを製造する。その用途は非常に広く、実行すべき作業を登録したプログラムと組み合わせることで、工場から家庭まで汎用性高く利用できる。たとえば家庭では食洗機で洗われた食器の片付けや衣類の分別など、これまで人がやるしかなかったような作業のプログラムをロボットで実行すれば、指示通りにやってもらえ、さらなる負担軽減になる。 このようなプログラムを多様なアクターが開発し、登録できる「Neuraverse(ノイラバース)」というプラットフォームも同社は整備する。汎用性が高いプロダクトであることから、ハードウェアと基幹システムを提供して自らをプラットフォーム化し、それを活用したプログラムを広い層に作ってもらおうという構想だ。日本企業も含め、多くの企業に同社製品を使ってもらい、ノイラバースのプログラム作りに参加してコミュニティを大きくしてほしいと、同社プロジェクトマネージャーのミリアム・イェーガー氏は言う。
ノイラ・ロボットによる洗濯物の仕分けをするヒト型ロボットの4NE1。やってもらいたい作業をプログラムとして登録し、実行すれば、ロボットはその仕事をこなし、さらに学習する
子ども部屋の片付けをする、自走型アシスタントロボットMiPA
AIを活用し、より精密で柔軟な動きを実現できる技術を持つ同社は、川崎重工業と協働ロボット「CLシリーズ」を共同開発し、製造している。使いやすいインターフェイスを持ち、他のロボットと連携できる高性能な工業用アームロボットだ。
EUでは2026年8月から包装および包装廃棄物規制が施行され、包装の削減・再利用、リサイクル素材の使用がさらに推進される。2030年以降はすべての包装をリサイクル可能にしなくてはならない。 そんななか、IFA Nextのピッチバトルで観客賞を受賞した、フィンランドのPaptic(パプティック)社の製造する木質繊維ベースの包装資材は有望だ。原材料が木であることから紙としてリサイクルできる一方、紙よりも強度があり、柔らかくしなやかで、プラスチック包装の代替品として非常に高いポテンシャルがある。2015年に設立された同社は、2021年、および2023年にから伊藤忠商事による出資を受け、伊藤忠が日本での独占販売権を持つ。家電や電子機器は、保護のためにプラスチックからできたビニール袋などで包まれているが、その代替品としても可能性がある。
しなやかで強度があり、くしゃくしゃに丸めても、シワはできるが破けない、Papticの素材でできた袋
今年のIFA Berlinは、AIホームとサステナブルデザインという世界標準の競争軸の先行事例が示された。海外企業との連携を模索する日本企業は、ぜひ海外のトップ展示会に参加し、先進トレンドを体感した上で、具体的な提携方法、提案先を発掘し、検討する機会としてほしい。
IFAベルリン2025は、AIとサステナビリティが単なる技術展示を超え、産業としての成熟度と実装力を示した場だった。各社が科学的根拠と事業性を両立させながら、持続可能なライフスタイルを提案する姿勢は、今後の市場競争における重要な指針となるだろう。