急成長を遂げるインドネシアのスタートアップ・オープンイノベーション市場は、政府の支援や若年人口、デジタル化の進展により世界の注目を集めている。日本企業にとっては、このダイナミックなエコシステムとの連携が、次なる成長の鍵となり得る。文化や制度の違いを乗り越え、両国の強みを活かした共創が今まさに求められている。
インドネシア市場は、特に市場データを重視する企業にとって無視できない存在である。約2億8,400万人、ASEAN人口の約40%を占める同国は、これまでに少なくとも7社のテック系ユニコーンを輩出し、その他に、ユニコーンと同様の評価額で買収されたとされる企業も7社存在する。このような活気ある状況は、日本が高齢化と労働力減少に直面している今だからこそ、より注目に値する。ロイターの調査によると、日本企業の約3分の2が深刻な人手不足を訴えている。若年層が多く、テクノロジー分野も成長を続けるインドネシアとつながることは、日本企業が国内市場の縮小に対応する新たな道を切り拓く可能性を持っている。
インドネシアは、世界第4位の人口を有し、経済も安定して成長している。2023年のGDP成長率は約5%、2024年も約4.9%が見込まれており、他国の停滞とは対照的だ。中間層の拡大と消費意欲の高まりが、国内需要を押し上げている。
デジタル化の進展も著しい。インターネット利用者は約1億8,500万人(人口の約66.5%)に達し、モバイル契約数は約3億5,500万件、人口比で125%を超えている。都市化率は約59%で、依然として約41%は地方に住んでおり、投資はジャワ島などの都市部に偏っている。そのため、ジャカルタ以外にも大きな未開拓市場が残されている。
投資という観点でも、インドネシアは堅調だ。2023年には過去最高となる約475億ドルのFDI(外国直接投資)を記録した。日本は依然として主要な投資国の一つであり、その中に第4位の位置を占めた。ジャカルタMRT(Mass Rapid Transit:大量高速輸送システム)のような大規模インフラプロジェクトにおいても、日本の資金と技術が活用されている。
しかし、市場の大きさだけで成功は保証されない。文化的・商習慣的な違いが壁となることもある。たとえば、セブン-イレブンは初期こそ人気を博したが、2017年に撤退。楽天も、クレジットカード普及率の低さやFacebook/Instagramを通じたC2C販売の台頭により、EC事業を2016年に解消した。
文化的な側面では、日本はインドネシアにおいて特別な存在だ。日本のブランド、料理、アニメ、ライフスタイル雑貨などは非常に人気がある。Sushi Teiのようなインドネシア発の寿司チェーンは、15都市で約100店舗にまで拡大。J-POP、アニメ、マンガも若年層を中心に根強い支持を集めている。
言語学習の観点からもその人気は明らかで、2021年時点で日本語学習者数は約71万1000人(中国に次いで世界2位)を数えた。日本への憧れや実用的な関心の高さを反映している。
とはいえ、現地のビジネスパーソンからは文化的ギャップも指摘される。あるジャカルタのマネージャーは、「日本の勤勉さは尊敬に値するが、長時間労働や厳格な上下関係には馴染みにくい」と語る。つまり、日本の“職人魂”や品質へのこだわりは評価される一方で、柔軟性も求められている。ローカル文化に寄り添いながら、日本的な信頼感を活かすバランスが重要となる。
日本企業は既にインドネシアに深く根を下ろしている。トヨタとAstraの合弁会社トヨタ・アストラなど、自動車分野では市場をリード。ソニー、パナソニック、資生堂、味の素などのブランドも長年にわたって現地で事業を展開してきた。
問題は、こうした企業が現地パートナーと本当に「共創」しているかどうかだ。多くのケースでは、日本側のプロセスや製品をそのまま持ち込んでいるに過ぎないという批判もある。
セブン-イレブンの撤退に対し、ローソン(約550店舗)やファミリーマート(約215店舗)は、業態の柔軟な調整や地元パートナーとの協働により比較的成功した。自動車分野でも、トヨタ・アストラ・モーターは市場で強いが、R&Dの多くは小規模かつ組立レベルにとどまる。日本発の製品が、現地のニーズ(支払い手段や生活習慣)に合わず失敗する例も散見される。
インドネシアのスタートアップは日々に急増し、既にユニコーン7社を輩出。特にフィンテック、エドテック、EC、モビリティ分野での活躍が顕著だ。DANA、Kredivo、Xenditなどの決済系、BNPL(後払い)サービス、Gojek(GoToグループ)やJ&T Expressなどの物流系などが代表例。
政府の支援も厚い。観光創造経済省(Kemenparekraf)によるIndoBisa 2024のようなスタートアップ支援、2025年新設のデジタル通信省(Komdigi)による政策調整などが挙げられる。その他、産業省、KemenkopUKM(中小企業省)、国家開発庁(Bappenas)、投資調整庁(BKPM)、OJK(金融庁)、Bappebti(暗号資産監督)などが連携してエコシステムを推進している。
加えて、「1000スタートアップ運動」「Making Indonesia 4.0」「AI戦略2045」「100スマートシティ構想」などの国家戦略も存在。Kominfo(現Komdigi)の「デジタル・インドネシア・ロードマップ(2021–2024)」は、ブロードバンド/5G、電子政府、フィンテック、デジタルスキル育成に注力している。
VCも多様で、East Ventures、Alpha JWC、AC Ventures、MDI Venturesなどのローカル勢に加え、SequoiaやSoftBankといったグローバル勢も存在感を示す。アクセラレーターやインキュベーターも豊富で、Digitaraya、Plug and Play Indonesia、Indigo、TINC、ASTRA DigitalX、BRI Venturesなどが活発に活動している。
とはいえ、課題もある。官僚主義、地方インフラの遅れ、人材の地域格差などが成長の妨げになる場合も多い。市場が飽和している分野(フードデリバリー、ライドシェアなど)では利益率が低下する傾向もある。宗教的規範(ハラル認証)、所得格差などへの配慮も不可欠である。
今回は、インドネシアのIT教育系スタートアップTimedoorを創業し、日本~インドネシアVC「Ango Ventures」としても活動する徳永裕氏にインタビューを行った。彼は11年前にインドネシアへ渡り、ボランティア活動を出発点として、現在では東南アジアへも展開する7,000名以上の生徒を抱える60拠点のエドテック事業に育て上げた。
徳永氏は、インドネシアのオープンイノベーションとスタートアップの動きについて「まだ発展途上」と語る。Gojek、Tokopedia、Travelokaのような大手が誕生した一方で、システム的な課題も多く残っているという。その一つが「出口戦略の不明確さ」だ。「初期投資からIPOや買収までをつなぐ仕組みが弱く、出口までの流れが分断されている」と指摘する。
彼がインドネシアを選んだ理由は、東南アジアの最大国で2.8億人という人口規模と、起業家精神の強さだった。しかし、彼が言っていた通り、インドネシアは不満・不安・不便がいまだに多い国で、成功するためにはその「不」の適切な対策を提供しながら、文化的・経済的多様性を理解し、ローカルネットワークと現場判断の柔軟性が必要だった。「インドネシアのスタートアップで成功するには、地に足の着いた適応が不可欠。日本式の計画をそのまま実行するだけではダメ」と語る。
徳永氏は、インドネシアの若者のエネルギーを高く評価する一方で、消費者の所得水準や官僚的な手続きの難しさが日本企業の障害になると警告する。「中堅規模の日本企業こそ、しっかりと時間をかけて信頼関係を築き、現地人材に権限を与えるべき」と強調する。
インドネシアは巨大な機会を提供してくれるが、それを得られるのは、“インドネシアのスピード”で動き、ローカルの価値観を尊重できるプレイヤーだけである。
(※全インタビューは次週公開予定)
今後、日イ間の共創が期待される分野は多岐にわたる。まず、再生可能エネルギー(太陽光、水力、地熱)は、インドネシアの脱炭素目標と日本の技術力が合致する最重要分野だ。電気自動車(EV)と電池分野でも、インドネシアのニッケル資源と製造能力、日本の自動車・電池メーカーとの連携は相互利益を生む。
都市インフラ・スマートシティ(公共交通、高速鉄道、ごみ処理など)も巨大市場であり、日本の都市技術はインドネシアの都市化ニーズに合致している。デジタルヘルスケア、物流、フィンテックもまた、中間層のニーズを支える領域として期待が高い。日本のメドテックやフィンテックのノウハウが、ここで力を発揮できる。
AIやSaaSなどのデジタル領域にも注目だ。日本のスタートアップが強みを持つ領域は、インドネシアの“4.0戦略”や“AI戦略”と親和性が高い。
潮流としては、以下のような変化が日本にとって追い風になっている:
ただし、リスクも無視できない。インドネシアの多くの市場は“低価格志向”であり、日本の高品質=高価格の商品は受け入れられにくい場合がある。EC市場ではGoTo、Bukalapakといった国内大手に加え、Sea GroupやGrabといった地域ライバルとの競争も激しい。規制面でも、外国資本の出資制限、ハラル認証の要件、コンテンツ規制の急変など、日本企業が油断すると足元をすくわれかねない。
さらに、宗教行事や文化的背景(ラマダンに合わせた広告や販売戦略など)もビジネスの成否に直結する。政治的・官僚的な複雑さを踏まえ、日本企業には柔軟性とスピード感が求められる。
以下は、インドネシア市場に挑む日本企業のための「オープンイノベーション実践チェックリスト」:
Pro Tip: “オープンイノベーション”をCSRや年度報告の項目扱いにしないこと。本当の意味での共創は、相互理解と時間、誠実な関係づくりから始まる。
インドネシアは単なる新興市場ではなく、“挑戦する者に報いる”複雑かつ多層的なエコシステムだ。成功の鍵は、ローカル文化への敬意、スピードある実行力、そして「共に創る」姿勢にある。
いまこそ、日本の中堅企業がインドネシアとの関係を深める絶好のタイミングだ。国内市場が頭打ちとなるなかで、インドネシアの成長は新たな生命線となりうる。ただし、それを得るには「本物の橋」を築かなければならない。
我々(ゲシェル)のような組織は、その橋を築くために存在している。インドネシアのスタートアップ、M&A候補、共創パートナーなど、貴社のニーズに合わせたマッチングが可能だ。150件以上のコラボ相談を受けてきた経験を活かし、最初の一歩を共に設計する。
インドネシアという“オープンイノベーション最前線”に関心があるなら、ぜひ話を始めよう。我々の専門家チームが、貴社の技術とビジネスを、インドネシアの成長とつなげるための一歩をお手伝いをしている。
インドネシアの西ジャワにあるボゴール市出身、ディマスと申します。インドネシアで17年、日本で8年を過ごした経験から、両国は互いに補い合える要素を多く持っていると実感しています。異なる文化や価値観を尊重しつつ、それらを融合させることで、より豊かな協力関係が築けるはずであり、その架け橋として貢献し続けたいと考えております。