現代の製造業界は、グローバルサプライチェーンの複雑化、人手不足、エネルギーコストの上昇、環境規制の強化など、かつてないスピードで変化する課題に直面している。こうした状況の中、効率的で持続可能な物流・生産システムの構築は、企業の競争力を左右する重要テーマとなる。 フランス・パリ北ヴィルパントで3月30日から4日間にわたってヨーロッパ最大級の産業総合見本市、Global Industrie 2026が開催された。91カ国から2,300社以上の出展企業と約60,000人が参加。AI・ロボット・デジタル化・環境センシングなど、未来を形作る技術が一堂に集まるこの場は、企業やスタートアップ、投資家にとって、トレンドを把握し新たなビジネスチャンスを見つける絶好の機会となった。特に今年は「産業AI」に対する注目と需要が高まり、各企業が開発中のプロダクトや問題解決案を提示し、議論を交わす場となっていた。以下、現地レポートをお届けする。
産業用ロボットメーカーの安川電機(本社:福岡県)の海外現地法人であるYASKAWA FRANCEは、直感的な操作が可能なAI搭載のCobotを展示していた。俯瞰で捉えたカメラ映像からフロアに置かれた構造物の位置情報を判断し、タッチデバイスで簡単に操作することができる。デモ機では果物のアイコンをタッチすると即座にロボットアームが動き、対象の果物をすぐさまアームでカゴに移動していた。対象物の構造に合わせたカスタマイズ可能なアームを備えているという。担当者によると「作業ごとに複雑なプログラムを打ち込んだりせず、学習を積み重ねたAIが判断して動作する。これからの物流業界の流動的な変化に対応するため、汎用性が高いシステムを構築することが期待される」という。
物流自動化の最新事例を体感できる「Entrepôt Connecté」ゾーンは、スタートアップを中心に、物流業界の様々な課題に対する革新的なソリューションが集結。
昨今、産業機械のイノベーションとして注目が集まっているのが、金属3Dプリントの精度向上である。フランス発のスタートアップ・AMFREEは、大型金属部品(チタン、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケルなど)の3DプリンターをPRしていた。レーザー照射を用いた効率的な3Dプリントにより、2.5m×2.5mサイズまでの大型プロダクトの製造が可能となった。10kgの構造物を、わずか1時間で制作することができるという。業界全体が大型部品の短時間製造を争う点で先進性が際立つが、プロダクトの安全性や品質認証をいかに獲得していくかが今後の課題となる。AMFREEはディープテック投資家も注目するフランス政府のイノベーションコンテスト「i-Lab」での受賞歴があるなど、今後の展開に期待が高まっている。
会場には、AIを活用した外観検査・プロセス最適化のソリューションについてのプロダクトも数多く展示されていた。多数の出展企業が製造ラインに直接組み込めるAIシステムを展示していたが、トレンドは大きく二極化する印象を受けた。
フランス発のAPREX Solutionsは、画像解析AIを中核としつつ、測定・ロボット制御・データ分析までを一体化した統合プラットフォームを提供している。展示では3Dセンサーに基づく自動カメラ制御アプリケーション「AX Vision」による製品検査のデモが行われ、現場の複雑な工程でも高精度かつ再現性のある検査が可能であることが示された。 特に、AIと従来の画像処理技術を組み合わせるハイブリッド方式を採用している点が特徴で、単なる自動化ではなく、製造現場のニーズに合わせた柔軟性を確保している。実際に、原子力関連施設や鉄鋼業界での導入実績もあり、製造ライン全体の最適化を狙った実務的なソリューションとして評価されている。
一方で、アメリカ発のDeepHawkは少量の画像データから短時間でAIモデルを構築できる“軽量”AIソリューションを展示していた。数十枚の学習用画像から30分程度で現場に導入でき、クラウドに依存せず動作。既存のカメラにもシステム導入が可能だという。 現状の製造ラインへの組み込みが容易で、導入コストや時間を最小限に抑えつつ検査を実現できる。そのため、中小規模の製造業や迅速なPoC(概念実証)が求められる現場に適している。会場では小型機械部品の欠陥検知デモが行われ、実際の製造現場での実用性が強調されていた。
APREX SolutionsとDeepHawkは、ともにAIによる外観検査を扱うが、そのアプローチは異なる。前者は統合型プラットフォームによる工場全体の高度化を目指すのに対し、後者は導入の敷居の低さから現場即応性を重視している。 この二つの方向性は、Global Industrie全体のトレンドを象徴している。すなわち、大規模統合型DXと現場主導型スモールAIが並存し、用途や現場条件に応じて使い分けられるフェーズに入ったことを示している。
取材を通じて感じたのは、AI・ロボット・デジタルツインといった先端技術は、単なる効率化の手段ではなく、持続可能な産業を構築する鍵になりつつあるということだ。従業員の安全性確保や作業環境改善、さらにはエネルギー使用量の削減や廃棄物削減といった環境配慮まで、技術導入の効果は多面的で企業の規模により、その対応策は異なる。特に欧州の企業は生産性向上と従業員満足度の両立を追求しており、今回の展示会ではその最前線を見ることができた。また、スタートアップの新技術が既存の大手企業のシステムに統合される事例も増えつつあり、オープンな技術導入の潮流も感じられた。
Global Industrie 2026 は、単なる展示会ではなく、産業界の最新動向を肌で体感できる場である。大手企業の最先端導入例、スタートアップの革新的ソリューション、そして従業員への配慮まで、あらゆる角度から産業の未来を理解できる貴重な機会だ。多岐にわたるテーマを展示するため、1日では全て見て回ることができない規模だが、分野横断的にテクノロジーが共有され、より効率的かつ安心安全な産業界を作り上げるための魅力的なアイデアに出会うことができるきっかけを提供してくれるだろう。