2025年10月8日~15日、世界最大級のプラスチック・ゴム産業展の「K 2025」がドイツ・デュッセルドルフで開催された。3年ごとに開催されるこの展示会の今回のテーマは「The Power of Plastics! Green – Smart – Responsible(プラスチックの力! グリーン・スマート・レスポンシブル)」。サーキュラーエコノミー(循環型経済)、デジタル化が今年の柱となった。日本からも29社の化学メーカーが出展し、日本からの来場者も多数参加したが、世界の最新トレンド、グローバルな競争のポイントを感じる絶好の現場となったといえるだろう。
写真提供: Messe Düsseldorf/C.Tillmann
安価に大量生産でき、軽量で柔軟なプラスチックは非常に幅広く使われ、暮らしになくてはならないものだ。しかし、石油から作られるプラスチックは分解されにくいために環境汚染や気候変動の一因とされ、近年は悪者のように扱われてきた。環境意識の高まりのなかでEUでは新循環型経済行動計画に基づいて規制を整備し、EU市場内で流通するほぼすべての製品について再利用・再製造しやすいように製造し、製品・包装ともに再生素材を利用することなどを、段階的に企業に義務化している。そんななかで各社ともリサイクル技術を発展させ、多くの再生素材がすでに広い製品に使われるようになっている。
そんななかで開催されたK 2025では、最新のプラ再生技術や機械、再生素材を使った製品、廃棄物から作られるバイオプラスチックなど、最新の循環型テクノロジーが集まり、その深化が見えてきた。
写真提供: Messe Düsseldorf/C.Tillmann
出展企業の約半分は欧州企業だったが、計66カ国から全3275社が展示し、約160カ国から175,000人以上が来場するなど、国際的にも注目の集まる場となった。大企業からスタートアップまで集まり、それぞれのイノベーションが発表された。Kのウェブサイトによると、来場者の68%が中間管理職以上で、75%が投資決定に関わる層で、企業のパートナーシップが大いに促進される場となったといえるだろう。
K 2025の中核テーマの一つは「サーキュラーエコノミーの構築」で、その最先端技術が見られた。EUではサーキュラーエコノミー実現のために「エコデザイン規則」「包装・包装廃棄物規則(PPWR)」などの新規制が整備されてきたが、そんななかで「リサイクル可能な製品」「リサイクル製品」の開発が加速する。特にPPWRでは今後、市場に出す包装を全てリサイクル可能にすること、順次、再プラ使用率を高めていくことが義務付けられる。
リサイクルは複数素材から成るものほど複雑で難しく、多層パッケージ・複合素材などは分離の難しさからリサイクル不可とされてきた。これらを再資源化できるよう、なるべく単一素材で従来と同じような機能を持つ新マテリアルなどの開発が進んでいる。たとえば、K 2025では、三井化学と英Bobst(ボブスト)、独Brückner(ブリュックナー) が共同開発する、リサイクル可能な単一素材から成るレトルト包装の開発が発表された。耐熱性と高いバリア性などを必要とする通常のレトルト包装は、PETとアルミ、PP素材などの複数層を合わせて作られていたが、分離が難しく、リサイクルができなかった。そのため、3社の技術を合わせて単一素材に特殊コーティングを施すなどして、同様の機能性を持つ素材を作っている。
それと同時に、リサイクルをするための技術も発展し、以前には処分せざるをえなかった廃プラを再資源化できるようになってきている。
たとえば、フランスのスタートアップ REPLACE(ルプラス) は、従来焼却・埋立されていた複合廃プラを再資源化できるIPRA®という独自技術を開発した。アルミとプラの複合材、車用のグラス繊維とプラ複合材やフィルムなど、再資源化が難しい複数の素材を細断後、特定の割合で混合して溶かし、硬いプラの板や棒として成形する。頑強な素材ができるので、農業用の支柱など、屋外での長期設置に最適な素材となる。同社はこの技術で、地元で回収された複合廃プラを農業用支柱などとして再生し、フランスで販売している。ローラント・ビルマンCEOは「従来、異なる素材を均一に混ぜるのは難しかったが、小ロットずつ混ぜて均一化できる技術を開発したことで、より多くのマテリアルを再資源化できるようになった」と話す。
2019年設立のREPLACEは、スイスの包装製造機械メーカーAISAと提携し、IPRA技術を搭載した機械をAISAが製造・販売し、自社ブースで展示した。その機械が使われれば、それぞれの地域で廃材を活用でき、各地でゴミを減らせるとビルマン氏は意欲的だ。
なお、REPLACEは地元から調達した廃プラをリサイクルし、CO2の排出最小化を目指す。ライフサイクルでのカーボン削減はEU規制のみならず、温室効果ガスの排出量を報告するための国際的基準であるGHGプロトコルなどでも重要となっており、今後の鍵を握る。現在、再プラの焦点は、用途ごとに必要となる耐久性・清浄性を担保するかという品質の高さと、環境負荷の低さとなっている。
環境負荷の低減という目的では、バイオマス素材を活用して作ったバイオプラなども目立った。特に革新的だったのが、残留有機物から微生物を使ってPHAというバイオポリマーを作る技術を開発した、オランダのスタートアップ、PAQUES biomaterials(パクス・バイオマテリアルス)だ。工場廃水や産業排水、食品産業の副産物流、果物・野菜廃棄物、下水汚泥などから天然のポリマーを作るという画期的な技術だ。同社はこのPHAを大量に生成して抽出し、完全に生分解する天然のポリマー・Caleyda®を製造する。オランダ・デルフト工科大学の研究から生まれたこの技術は2015年にバイオ技術を使った排水処理をするオランダのPAQUES社の中で事業化に向けて研究が続け、2021年に独立した。さらなる研究を通じて技術を向上させ、パイロット工場を設立し、現在、本格的な工場を設立中で、今後規模を拡大していく予定だという。同社チーフ・コマーシャル・オフィサーのリシャード・シュラマ氏は「このイノベーティブな技術のグローバル展開も見据えている」と話す。
REPLACEのように、廃材を洗浄して細かくして溶かし、再び成形するマテリアルリサイクルは環境負荷が低く、ヨーロッパでは優先される。しかし、通常は単一の素材のみを集めて処理しなければ質を保てず、何度も加熱・冷却を繰り返すことでプラの質が徐々に劣化する。そのために、より低品質で許容される製品に作り替えるカスケードリサイクルという手法が用いられることが多い。それに対し、使用済みプラを一度化学的に分解し、元の原料であるモノマーやナフサとして分子レベルで再生するケミカルリサイクルという方法がある。この方法では何度でも質の高いプラスチックを製造できるが、大量の薬品とエネルギーを必要とし、コストと環境負荷が大きい。
しかし、学術レベルで近年このケミカルリサイクルの研究が進み、低エネルギーで資源を取り出せる可能性が出てきた。その新技術に賭けているのが、米国のスタートアップ・MacroCycle Technologies(マクロサイクル・テクノロジー)だ。最先端の高分子化学の技術をPETおよびポリエステルのリサイクルに用い、石油化学産業を経由せず、低エネルギーかつ炭素を排出せずに高品質な樹脂を生産できる。衣類であれば再び衣類に水平リサイクルするという、完全なる循環型リサイクルを目指している。マクロサイクルは、実験室規模での検証と、規模を拡大したパイロットプロジェクトを完了し、より大規模な生産デモに向けて準備中だ。「廃棄物の増加が問題となっている繊維のリサイクルに注力しようとしていることから、将来的には、衣料品の80%以上が作られるアジア地域への進出に関心がある」と共同創設者でCTOのヤン=ジョージ・ローゼンブーム氏は言う。
他にもK 2025では「デジタル化の推進」が中核テーマとなっていたが、プラスチックの開発・製造の場にもAIやデジタル技術が次々に導入され、効率化とイノベーション創出が進んでいる。再生資源の利用を助けるDX技術、AIスタートアップなども目立った。再資源目的で回収した素材の性能判定AIや、汚染度に応じて分別する技術、原料・副生成物の流通最適化プラットフォームなどが見られた。
なかでも、シンガポール発のスタートアップ、Polymerize(ポリマライズ)は、AIを活用して化学製品や材料の開発を支援する。化学・材料業界に特化した同社のプラットフォームは、研究データを使って目的に応じた材料の最適な配合などを提案する。共同創業者でCEOのクナル・サンディープ氏によると、再生プラの含有率を10%高めるのに従来は数年の開発期間が必要だったが、AIが導き出す予想を活用することで、時間を半分以下に圧縮できるという。成分が不均一なリサイクル素材を用いたときの最適な配合を見出すのに苦心していた企業もデータから高精度の予想ができるようになり、圧倒的に早く最適な配合を見出せるようになったという。一般的に、使用済みプラから作られた再生ペレットは成分が均一でなく、ロットごとに分子量、不純物レベル、添加剤、および過去の使用履歴が異なる。その差は最終製品の品質に影響するため、状態を把握しそれに合った製造が求められるために手間がかかる。しかし、開発を効率化できれば、再生ペレットも導入しやすくなり、再生プラ率を高めやすくなる。なお、Polymerizeは日本と中韓などアジア各地でもすでに事業を展開し、ドイツにも新たに拠点を設立するなど、急成長中だ。
また、今後EUで求められる、製品のトレーサビリティについての表示義務にもデジタル技術が活用されている。エコデザイン規制では段階的に、製品の原材料・製造・リサイクルに関する包括的情報をデジタル製品パスポート(DPP)、PPWRでは包装の環境負荷やリサイクルの方法に関する情報をみられるQRコードをそれそれ表示することが求められる。これらの規制に対応するために、30社以上のプラスチック企業がコンソーシアム・R-Cycleを作り、製品や包装の情報に関するデータベースを作り、QRコードでそれぞれの原料やリサイクル可能性、コンプライアンス情報を読み込めるような仕組みを開発した。複雑なサプライチェーンにおいては、デジタル技術を活用しなければ、トレーサビリティを保つのは難しい。広い場面でデジタル技術が活用されていた。
K 2025には急速に変化する業界で生まれたサーキュラーエコノミーに向けた技術が集まり、欧米を中心に作られる新たなトレンドに触れる機会となった。最新の再生プラスチックやその導入の具体事例を目にし、自社事業へのヒントを得たり、自社製品のリサイクルしやすさや設計の見直しの必要性を実感した企業も少なくなかっただろう。最新の再生プラ素材の利用や製造を助ける機械やデジタル技術なども集まり、社内に導入できる具体的なアイデアや提携先候補を検討できた企業も少なくなかっただろう。
スタートアップから大手まで、多様なグローバル企業が一堂に会した本展では、提携候補を把握・評価し、短期間で協業・共同開発の可能性を模索することが可能だったといえる。日本企業にとっても、独自の技術や基盤と合わせることで、シナジーを見込める他国の先進的な技術を見出せるきっかけとなっただろう。ぜひ積極的に国際的なトップ展示会に参加し、世界のトレンドを感じた上で、海外企業との共同研究や提携の可能性について考える機会として欲しい。
EUの厳しい規制も後押しとなり、プラスチックのリサイクルに関する新技術、それを後押しする製品が次々と生まれている様子が伝わってきた。プラスチック業界の、この急速な変化の流れに乗れるかが、今後の鍵を握るだろう。