ゼロカーボンでPET再生、MIT発ディープテックCEO独占インタビュー

気候危機の深刻化から、企業がサステナビリティ目標の設定を求められるようになって久しい。廃棄物の増加から、資源を効率的に循環させて価値を生み出すサーキュラーエコノミー(循環型経済)への転換が世界中で訴えられている。しかし、2022年のOECDの調査によると、世界のプラスチックリサイクル率はわずか9%だ。衣類などの布地に至っては、1%以下しかリサイクルされていない。その背景にあるのは、リサイクルに莫大な手間と費用がかかること、質の担保が難しいことだ。 この問題に対し、米マサチューセッツ工科大学(MIT)発で急成長中のディープテック「マクロサイクル・テクノロジーズ」は、独自技術でプラスチックリサイクルの常識を覆そうとしている。日本のアニメに強い影響を受けてきたという、同社の共同創業者兼CEOへの独占インタビューで、その技術がゲームチェンジャーとなる可能性、その生い立ちから創業、そして日本企業に寄せる熱い期待について語ってもらった。

創業から3年でシリーズAを見据える驚異の成長

 「私たちは今、超高速で成長しています。2026年は素晴らしいスタートを切りました」

 ボストンを拠点とするMIT発ディープテック「マクロサイクル・テクノロジーズ(MacroCycle Technologies)」の共同創業者兼CEOであるスチュワート・ペニャ・フェリス氏(28)はそう言う。 勢いに乗るペニャ・フェリス氏は、米誌フォーブスの2026年「30 Under 30」で、製造業・産業部門の30歳未満の30人に選出された。

 マクロサイクルは、使用済みのペットボトルやポリエステル(PET)の衣料をカーボンフリーで、元の素材と同等の品質のPETに再生できる画期的な技術を持つ。さらにそのリサイクルコストを新品のバージンプラスチック生産と同等に下げようとしている。低価格化が実現すれば、世界中で問題視されるアパレルの廃棄物問題解決に向けたゲームチェンジャーとなるだろう。同社の強みは、アカデミックな長年の研究に裏打ちされた革新的な技術と、創業者らの驚異的なエネルギーとハングリー精神だ。

 同社の始まりは、2022年のMIT起業クラスでのペニャ・フェリス氏と、化学工学の研究者だったヤン・ゲオルク・ローゼンブーム博士の出会いに始まる。翌年にはビル・ゲイツ氏創設の気候変動技術への投資ファンド「ブレークスルー・エナジー」のフェローシップで50万ドルの助成金を獲得。それから技術の商業化を目指し、2025年には650万ドルのシードラウンドをクローズした。すでにパイロットプロジェクトを完了し、現在、初期顧客向けの試験運転中である。

 2029年には年間5000トン規模の商業プラント開設を目指し、2026年中にシリーズAの調達を始めたいと考えている。そのスピード感には目を見張るものがある。

 2025年10月には米国のスタートアップメディア「テッククランチ」による、年次のスタートアップコンテストで、トップ5のファイナリストとなった。このコンテストはDropbox、Cloudflare、Discordなどのテック企業を過去に輩出してきた重要プログラムである。


技術的ブレークスルー:「破壊」ではなく「結合」の化学

 マクロサイクルの技術の核心は、独自の「ケミカルリサイクル」技術にある。既存のケミカルリサイクルは、化学反応を利用してプラスチックのポリマー鎖の分子結合をすべて切断(解重合)し、元の原料であるモノマーやナフサに戻してから再重合する。プラスチックの品質は保てるものの、高温・高圧が必要で大量のエネルギーを使うため、環境負荷もコストも高い。

 一方、マクロサイクルのアプローチは、PETの分子構造を分解せず、化学反応によって一度「マクロサイクル」と呼ばれる環状の中間体に変形させる。そこから不純物や染料を除去し、PETだけを取り出したあと、複数の中間体の輪を開いてそれらを結合させ、長い分子の鎖を作ってPETを生成するというものだ。

ポリマーの分子を分解せずに一旦環状にし、それを開いて繋げることで長い鎖を作り、PETを作るのがマクロサイクルのやり方だ。鎖が長いほうが質が高い。 画像:MacroCycle Technologies提供

 このやり方は効率が良く、新品のバージンプラスチックを作るのに比べてもエネルギー消費量を80%減らせる。さらにリサイクルプロセス全体を電化できるので、残る20%を再生可能エネルギーとすれば、ゼロカーボンでPETを作れる。

 「競合他社がやっているのは、ケーキを一度小麦粉と卵などの素材レベルにまで分解し、それを使ってもう一度ケーキを焼き直すようなものです。これには莫大なエネルギーとコストがかかります。一方、私たちのアプローチは、半分食べかけのケーキ同士を融合させ、一つのホールケーキとして作り直すイメージで、ずっと効率的です」

 ポリエステル混紡繊維からボタンやジッパーなどの不純物を除去するには、通常大変な手間がかかる。しかし、マクロサイクルは独自の触媒技術により、一度の工程で分離できるという。分離にあたっては綿素材も傷つけずに回収できるので、レーヨンなどの再生セルロース繊維の原料として販売できる。

マクロサイクルによる独自のポリマーリサイクルプロセスSolvogenesis 画像:MacroCycle Technologies提供

 再生プラスチックの利用を義務付けようとするEUなどでは、必要なエネルギーの少ない「マテリアルリサイクル」技術が推進されてきた。しかし、使用済みプラスチックを粉砕、洗浄、融解、造粒して再生させるこのやり方では、品質が劣化してしまう。そのため、ペットボトルを衣服用繊維にするなど、元の素材より低位な品質の原料として再生されてきた。

 一方、マクロサイクルのアプローチでは、ポリエステルの結合を保ったままリサイクルするので品質を落とさず、使用済みペットボトルを再び同品質のボトルにできるという。プラスチックには使用用途に応じて安全基準が設けられているが、試験では最も厳しい食品に利用する安全基準もクリアしたそうだ。



マクロサイクルの持つ技術の優位性

1. エネルギー消費80%減:ポリエステルの結合をすべて壊す必要がないため、必要とされるエネルギー量が圧倒的に少ない。
2. ゼロカーボン達成可能: プロセスの電化ができ、再生可能エネルギーを使用することでスコープ1(直接排出)をゼロにできる。
3. 不純物への耐性: 独自の触媒技術により、混合廃棄物(ポリエステルと綿の混紡など)からもポリエステルのみを選択的に抽出し、それぞれの素材をアップサイクルできる。
4. 品質の維持:プラスチックの質を落とさず、同質のものにリサイクルできる。


目指すはバージン素材同等の「価格競争力」

 近年、酵素や熱、触媒などを使った新たなプラスチックの再生技術が生まれてきているが、いずれも多大なエネルギー、時間を必要とするため、莫大な費用がかかる。

 通常商品よりもずっと高価となれば広い流通は妨げられ、リサイクルは進まない。だからこそマイクロサイクルは、「グレーンプレミアム」なしでの価格競争力の実現にこだわってきた。プロセスの効率が高いため、他の技術よりもずっと安価にプラスチックを高品質に再生できる。規模を拡大してさらに効率化できれば、石油由来の未使用のバージンPET樹脂と「同等価格」で提供できるようになるという。

 「競合他社が年間5万~10万トンのプラント建設に5億~10億ドルの投資を予定するなか、私たちは年間5千~1万トンのプラントを3千万~5千万ドルの投資で作ろうとしています。私たちがいかに効率的であるかがわかるでしょう」

 この高効率なプロセスは、共同創業者でCTOのローゼンブーム博士による、長年のアカデミックな高分子工学の研究をもとに開発された。

 「当初、私は彼のリサイクル技術は『あまりに優れすぎて現実離れしている』と思いました。私がかつてプラスチックリサイクルに従事していたエクソンモービルでは、プラスチックを完全に分解して油に戻しており、そのプロセスを回避できるとは信じられなかったのです」

 しかし、その技術が本物であると気づいたペニャ・フェリス氏は、2022年末、その事業化を自らローゼンブーム博士に持ち掛けたのだった。それから数々のスタートアップ支援プログラムを通じ、本格商業化の手前まできた。

共同創業者でCTOのヤン・ゲオルク・ローゼンブーム博士(左)とペニャ・フェリス氏 写真:MacroCycle Technologies提供

28歳CEOのハングリー精神と「アメリカン・ドリーム」

 ペニャ・フェリス氏はMITというトップ大学でMBAを取得しているが、彼の経歴は典型的なエリートコースとは一線を画す。彼は11歳のとき、子どもたちにチャンスを与えようと米国への移住を決めた両親に連れられ、ドミニカ共和国からニューヨークに移り住んだ。彼の原動力となっているのは、幼少期の原体験だ。

 「ドミニカ共和国にいた5歳のとき、母の腕の中で目を覚ますと、停電であたりは真っ暗でした。心配そうな母の顔が月明かりで照らされていたのを覚えています。そのとき『いつか僕が、この国の電力問題を解決する』と母に誓ったんです。当時のドミニカでは、頻繁に停電が起きていました」

 エネルギー問題の解決を目指した彼は、エンジニアを志すようになった。米国移住後は家族の支えもあり、豊かではない暮らしの中でも猛勉強し、飛び級を経て16歳で名門コーネル大学に入学。化学工学を学んで20歳の若さで大学を卒業すると、世界トップ級のエネルギー企業、エクソン・モービルへ就職した。

 「母国の電力問題解決を目指していたので、世界でエネルギーがどう運用されているかを学びたいと思っていました。だからこそ、できるだけ大きなエネルギー企業で働きたいと考え、実際に経験できました」

 エクソン・モービルでは、プラスチック廃棄物を原料とし、油を製造する処理ユニットのエンジニアとして、リサイクル事業に携わった。だが、社風が合わずに3年強で同社を解雇されるという憂き目を経験。しかし、エンジニアとしてより、自分でビジネスを興したいと気づいた彼は、ハードテック起業に最適と考えたMITのMBAに24歳で入学。2年後にマイクロサイクルを立ち上げた。

 移民一世の長男として家族で初めて大学を卒業したというペニャ・フェリス氏は、「国を背負っているという意識」を持っているという。フォーブスの「30 Under 30」に選出されたことは、母国の半分くらいの人が知っていると笑う。

 「このリサイクル技術を通じて、母国が直面している廃棄物、特にプラスチック廃棄物問題に対処できます。さらにエネルギー消費の少ないリサイクル技術を広めてエネルギー需要を削減すれば、気候変動にも貢献できますし、停電が起きるのも避けられます」

 決して恵まれた環境にいたわけではない彼の猛進を支えてきたのは、意外にも日本のアニメ『NARUTO -ナルト-』の精神だったという。

 「私はナルトを見て育ちました。移民の子だった私にとって、『決して諦めない』という彼のモットーは人生の指針そのものです。村の問題児から、尊敬されるリーダーへと成長するナルトの姿を、私自身の成長と重ね合わせて見ていました。私が自分を信じ、野心的な目標に向かって進めてこられたのには、その影響が少なくなかったと思います」

「爆速」の成長を可能にした世界トップのエコシステム

 マクロサイクルの急成長は、創業者のビジョンと技術があってこそだが、それを支えてきたのは、ボストンおよびMITにおける世界最高峰のディープテック・エコシステムだ。

 「ボストンには、ハードウェアやクライメートテックに関する世界最高の頭脳が集積しています。半径1マイル以内に自分と同じ課題を乗り越えた元起業家や、専門知識を持つ投資家が何十人も集まっており、直接助言を求められるのです」

 マクロサイクルはMITの数々のアクセラレータープログラムに、段階ごとに参加し、資金やアドバイスを得て成長してきた。ブレークスルー・エナジー・フェローシップへの参加もMITのネットワークがきっかけとなったが、それによって技術への信頼を得やすくなったという。

 「私はボストンでなければ、私が目指していた目標を実現するための技術や人材に巡り会えなかったと思います。世界最高の工科大学であるMITには、革新的なテクノロジーがあります。そういう技術を持った人がMITスローン経営大学院のビジネス人材と協力して、商業化するということが長年行われてきたのです。だからこそ、そのための非常に豊かなエコシステムが形成されています」

 現在、同社はボストンのディープテック支援施設「The Engine」に拠点を置く。巨額の設備投資を伴う自社工場建設を待たず、既存の石油化学プラントの一部を借りて委託製造をするモデルで市場へ製品を供給し始めている。ボストンで得られた資源、数々のパートナー、投資家をフルに活用して、スケールアップを図っているのだ。

写真:MacroCycle Technologies提供

プラスチックを石油ではなく「廃棄物」から作る未来へ

 ペニャ・フェリス氏が描く10年後のビジョンは野心的で壮大だ。「私の目標は、マクロサイクルの技術をプラスチック生産の『標準』とすることです。プラスチックの生産に石油ではなく、廃棄物から作ることを世界の当たり前にしたいのです」

 今後のマイルストーンとしては、まず初めに北米で年間5千~1万トン規模の初の商業プラントを建設予定だ。その後、同規模の自社プラントを北米と欧州で複数開設・運営してプロセスを確立すると同時に、利益の最大化を目指す。バージンプラスチックとはまだ価格差があるが、規模を拡大するなかでより効率化し、価格低減を実現しようとしている。

 「私たちの技術を効率的で価格合理性のあるものとすることで、プラスチックリサイクルを、道徳的な義務としてではなく、経済的に最も合理的な選択肢として提示したいのです。資本主義の力学を使って業界を変革するつもりです」

 さらにリサイクルを推進するため、より広い地域での展開を目指している。ネットワークがあまりない南米やアジア地域では、現地パートナーを必要とするため、ライセンスモデルの採用を考えている。



成長のロードマップ

1. フェーズ1(現在): 既存プラントでの委託製造を通じ、アパレル・フットウェアブランド向けにリサイクルペレットを供給。既に年間35万ドルの収益を上げている。
2. フェーズ2(直近): 年産5,000〜10,000トン規模の商用プラントを北米・欧米で複数建設。規模拡大で価格低減を目指す。
3. フェーズ3(将来): より広い地域に展開。北米・欧州では自社でプラントを運営しつつ、それ以外の地域では、現地の大手化学企業へ技術ライセンスを供与して技術を展開


日本企業への期待:信頼に基づく長期的なパートナーシップを

 MIT在学中に日本語の授業を履修し、日本を訪れたというほど、親日家であるペニャ・フェリス氏は、インタビューの終盤、日本企業との提携への強い意欲を語った。

 「日本の廃棄物の回収システムは世界的に見ても非常に優秀です。将来的には必ず日本市場に進出したいと考えています」

 マクロサイクルは今年始めたいと考えているシリーズAラウンドにおいて、日本企業からの戦略的投資を強く望んでいる。単なる資金提供だけでなく、将来的に日本国内へのプラント建設を見据え、長期的に協働できるパートナーを求めているのだ。これまでにもすでに複数の日本企業と対話する機会があったが、その支援の可能性を感じてきたそうだ。

 「日本でのビジネスは『信頼』に基づいた長期的な関係構築が不可欠だと理解しています。まだリスクがある段階から共に歩み、信頼関係を築いた上で連携できるパートナーと繋がりたいです。まずはスピード感を持って成長できる環境のある米国で事業を固めるつもりですが、その後のスケールアップ過程で、皆さんの知見とリソースが必要です」

 プラスチック・繊維リサイクルの分野で世界的なゲームチェンジャーとなるかもしれないマクロサイクル。この若き「ナルト」のような創業者の率いるスタートアップと、技術力と資本を持つ日本の大企業がタッグを組んだ時、どのような化学反応が起きるのか。

 資本主義の力学の中で、リサイクルを経済的に合理的なものにしようという野心的な挑戦は、新たな突破口を探す日本の大企業にとって、またとない共創の機会となるかもしれない。

猛進を続けるスチュワート・ペニャ・フェリスという起業家は、移民としてのハングリー精神、MITで培った論理的思考、そしてエクソンモービルで学んだ現場のリアリズムを兼ね備えていた。これまで急成長してきた同社が、今後商業化を実現した後、どのように成長を遂げられるのか。「ナルト」をロールモデルの一つとして育ち、日本文化に興味を持つ彼とともに、イノベーションを起こせる日本企業が求められている。