ホルムズ海峡閉鎖によって原油やナフサなどの石油製品の供給が絶たれ、特に中東依存が高かった日本では、プラスチック不足が懸念されている。そんななか、石油製品を使わずにプラスチックを作る技術が注目されている。 なかでもオランダに拠点を置く「Paques Biomaterials(パーク・バイオマテリアルズ)」は、「有機廃棄物」を微生物に分解させ、プラスチックの元になるポリマーを生成する。原料は世界中どこにでもあるため、資源のボトルネック無しに、完全生分解性のバイオポリマーとしては安価に生産できる。 現在商業化を急速に進め、世界的な進出を目指す、同社Co-founder & CTOのレネ・ロゼンダール氏から、その技術の仕組み、同社が日本市場に興味を持つ理由について聞いた。
「私たちが取り組んでいるのは、基本的に微生物に有機物を食べさせ、太らせることです。この微生物は食べ過ぎると、私たちの脂肪のように、余剰エネルギーをPHAというポリマーとして蓄積していきます」
有機廃棄物を原料とし、微生物を使って完全生分解性のポリマーを作る「パーク・バイオマテリアルズ」の共同創業者兼最高技術責任者(CTO)のレネ・ロゼンダール氏は、そのメカニズムをそう解説する。同社は世界初の試みとして、食品加工の残渣や有機物を含む産業排水から100%天然由来で高品質のPHA(ポリヒドロキシアルカノエート)のバイオポリマー「Caleyda®」を作るという驚くべき技術を開発した。

現在のところ、再生紙や食品の工場排水からPHAを作っているが、その作り方はシンプルだ。廃水に微生物を加えて水中の有機物を餌として食べさせ、PHAを蓄積させる。それを集めて抽出することで、プラスチックの元となるポリマーが作れるのだ。
「微生物には、『豊作』と『飢餓』状態を繰り返して経験させて培養します。つまり、ある瞬間には食べ物を豊富に得て成長できるものの、その後、食べるものが何もない状態に置くのです。飢餓状態でもPHAが蓄積されているので増殖でき、そのあとに食べ物を豊富に与れば、細胞は効率的にPHAを蓄えられます」
このように効率的に培養することで、バクテリアは自身の細胞重量の最大80〜90%ほどのPHAを溜め込める。まさに「極小のポリマー製造工場」である。
Caleyda®はPHAのなかでも、特に柔軟性と丈夫さを両立させるように改良したPHBVという素材で、溶融することで石油由来のポリエステル、あるいはポリプロピレンのように多種多様な製品に加工できる。ゴミを処理する代わりにプラスチックの原料とでき、害のあるマイクロプラスチックを一切残さないため、「ゲームチェンジャー」となる可能性を秘めている。
世界では化石由来プラスチックが現在年間約4億3000万トン生産され、その量は2060年までに3倍になると予測されてきた。しかし、石油製品であるプラスチックはライフサイクルを通じて大量の温室効果ガス(GHG)を排出し、廃棄物を増やし、環境や生体を汚染する。そこで、使い捨てプラスチックの使用、マイクロプラスチックに対する規制が世界中で徐々に整備されており、PHAを含む生分解性素材に対する需要が急増している。
EUでは、5mm以下の合成ポリマー微粒子(マイクロプラスチック)を放出する製品の加盟国における段階的販売禁止がすでに定められている。直接土壌に接する農業用製品に対する制限は厳しく、徐放性の肥料は2028年以降、種子・農薬は2031年以降、コーティングに完全生分解性の素材しか使えなくなる。そのため、PHAを含む代替素材を使った製品開発が広い分野で進められている。日本でも業界の自主規制などによってマイクロプラスチックの使用が徐々に自粛され、農業分野では2030年までに素材を切り替えるとされた。
そんななかでPHA市場は特に著しい成長が見込まれ、2023年の約10万トンから2028年までに100万トンの10倍になると予想されている。すでに、植物油を原料とするPHAを製造する日本のカネカ株式会社をはじめ、数社がパイオニアとしての地位を確立している。カネカのPHAは、柔らかく加工しやすいPHBHという種類のもので、2011年から「Green Planet」というブランド名で年間数千トン生産され、日本ではカトラリーやストローをはじめ、幅広い用途に採用されている。
バイオプラスチックは石油由来のものに比べて価格が高く、生産規模が小さい。既存のPHAの生産コストは1キロ約5ユーロ(約925円)で、平時の石油由来素材の1ユーロ(約185円)より高く、それほど広くは普及していない。
しかし、石油製品の価格が高騰する今、その製品価格差は縮まっている。ホルムズ海峡閉鎖の影響により、3月終わり時点で、世界のポリエチレン生産設備の約半分が、原料不足による制約を受けている。
有機廃棄物を使うパーク・バイオマテリアルズには原料面で圧倒的な優位性があり、PHAのパイオニア企業と比べて、生産コストはかなり低い。有機廃棄物は世界中どこにでもあり、その供給はボトルネックにならないうえ、その製造プロセスもよりシンプルだ。
「既存のPHA生産者は、特定の微生物、高価な原料を用い、厳密な条件下で高度に制御された発酵プロセスを通じてPHAを作ります。他の微生物の混入が許されないため、事前に滅菌処理が必要です。植物油、精製糖などの農作物由来の製品を使うので作物の生産地の状況に左右されます。燃料価格の上昇に伴い、原料価格も上がるでしょう。
一方、私たちが用いるのは混合培養という手法で、PHAを生成する微生物を大量に繁殖させることで、廃水中に存在する微生物を駆逐できるように反応槽の条件を調整します。ですから滅菌も不要で、通常の排水処理施設と同様のタンクや設備を使えるのです。一般的な浄水と同様、数時間で水はきれいになり、その間にPHAが生成されます」
エネルギーと労力を必要とする滅菌プロセスと、高度な管理が不要となるので、設備費用も運営費用も抑えられる。
「今後規模を拡大すれば私たちの生産コストは低下し、製品価格はさらに手頃になります。同時に私たちが期待しているのは、いつか石油由来のプラスチックの価格にGHG排出やマイクロプラスチックによる汚染コストが上乗せされることです。そうなれば、PHAとの価格面での差がなくなり、PHA市場は一気に成長するでしょう」
パーク・バイオマテリアルズの深い技術的優位性は、その創業の経緯に根ざしている。同社はもともと、排水処理を専門とし、革新的な技術を生み出してきたオランダのバイオテック企業「Paques (パーク)ホールディンググループ」のR&Dプロジェクトとしてスタートした。環境エンジニアリングの博士号を持つロゼンダル氏は、このパーク社のCTOを務めていた。
同社は長年、製紙業界やビール醸造所、化学工業などの工場で、排水からバイオガスを作る技術を提供していた。しかし、バイオガスは安価でしか販売できないため、同社は排水からより高い収益を生み出せる処理方法を模索していた。
「パーク社は研究開発志向の強い会社で、当時は特にその傾向が強く、多くの大学と共同研究を行っていました。その一つであるデルフト工科大学の環境技術グループは、2010年頃、適切な環境下で廃水を使って微生物の混合培養をすることで、PHAを生成できると発見しました。バイオポリマーは価値が高いので、私たちも興味を持ち、研究を進めていきました」
2012年には、実際の産業排水処理現場でPHAを作れるかを検証するため、製紙工場やチョコレート工場などでパイロットプロジェクトを実施し、技術が実証された。それを商業化するためにパーク社は着実に技術改良を重ね、7つの特許群から成る特許ポートフォリオを取得した。
「この間に気づいたのは、商業化には技術だけでなく、バリューチェーンの構築も必要だということです。しかし、それには本気で集中して取り組む必要があるとわかっていました。だからこそ、2021年に親会社の売却に伴って独立の機会が訪れた際、共同創業者のヨースト・パーク氏と私は、当社をスピンアウトさせたのです。一つのことに真に集中できるようになれば、技術は進歩し、市場にもより速く適応できるようになると考えました」
独立後の2024年1月、政府系投資機関のInvest-NLや北オランダ投資開発機関NOMなどから1,400万ユーロ(約26億円)の資金を調達し、1日数10キロのPHAを製造できるデモ用の生産施設を建設した。
その後、オランダの製紙企業ESKA、および食品産業の副産物を回収・販売するLooopとそれぞれ提携し、両社が保有する有機物を活用してPHAを作るための計画を重ねてきた。現在、両社とそれぞれ本格的な商業プラント建設に向け、最終投資決定の準備を進めている。
排水を使ってPHAを生産するESKAとの共同施設の投資決定は2026年中に下し、2028年からの操業を見込む。Looopとの共同プラントはCaleyda®の年間生産能力6,000トンとなる予定で、2029年からの操業開始を目指す。
「これらの施設が稼働すれば、事業はより早く展開すると考えています。一方、商業プラントの建設にあたっても、そこで作ったPHAに買い手がいることをある程度確かにする必要があります。これまであらゆる種類のユーザー企業と話し合い、最近、10件目のオフテイク契約が締結されました。これで生産するPHAの大部分の販売先が確保されたので、プラント建設の資金調達がより進みやすくなるでしょう」
パーク・バイオマテリアルは、自らCaleyda®を使った最終製品は作らず、それらを使って製品を作るユーザー企業への素材や技術の提供に特化しようとしている。
「私たちは小さな会社ですので、当社の生分解性PHAを利用することでメリットを得られるユーザーを見つけ、彼らに素材と技術を提供することに注力し続けるつもりです。Caleydaの特徴は融点が低く、柔軟性もあるので、過度な加熱を避けたいデリケートな素材へのコーティングなどに向いています。熱可塑性があり、通常のプラスチックと同じ方法で加工できる一方、生分解性を持つという素材は非常に限られるので、それが評価されています」
Caleydaを使った商品開発を進める企業は幅広く、天然素材で使い捨てプラスチック代替品の製品を製造するオランダ企業Solinatraや、紙のバリアコーティングをするベルギーのSubeco社のほか、生分解性素材を求める農業・園芸関連企業とも数多く提携する。
そんなパーク・バイオマテリアルズが掲げるビジョンは、「自然と共生する文明(A civilisation in symbiosis with nature)」だ。これは同社の基盤となる理念を示す。
「人間社会はコントロールを失いつつあり、ますます持続可能ではなくなっていると思います。私個人、そして会社を突き動かしているのは、自然との共生により近い社会のあり方を模索したいという思いです。環境を制御不能な形で汚染しないよう、廃棄物と排水を活用しようとしているのです」
この理念を実現するためにも、Caleyda®の世界展開に向けた準備も進める。
「私たちが今集中しているのは、ヨーロッパで2つのプラントの稼働を確実に成功させることです。しかし、その後は、グローバルなライセンス供与モデルに移行し、積極的に技術を広げていく予定です」
すでに世界の広い地域の国の企業とライセンス供与について話し合いがなされており、目標は2035年までの世界中で50件のライセンス供与契約締結だ。
なかでも日本市場は非常に魅力的だと、ロゼンダル氏は話す。
「私たちは日本国内の潜在パートナー企業にも積極的にアプローチしており、ライセンス契約について協議している企業もいます。日本はバイオマテリアルの観点からも、廃棄物活用技術という観点からも非常に興味深い市場です。高度な廃棄物管理システムを持ち、政府も積極的にプラスチック汚染を削減しようとしているだけでなく、消費者もサステナブルな素材に興味を持っていると認識しています。さらにマテリアルセクターも堅調で、バイオポリマーに多額の投資を行ってきた化学メーカーもいます。有機廃棄物を出し、さらに素材事業も持っている企業と特に話をしたいですね」
有機廃棄物から生分解性のポリマーを作れる独自技術を導入すれば、処理費用のかかるゴミ処理を新たな収益源に変えられる。大量の廃水や有機廃棄物を排出する食品加工企業、製紙会社、工業メーカーや自治体などは、高額な処理コストを抑え、新たな価値を持つ素材として自社製品に利用したり、販売できるようになる。B2BおよびB2Cブランド企業は循環型ポリマーを自社製品に導入することで、世界的なマイクロプラスチック規制や、原材料不足に対してレジリエンスを高められる。
パーク・バイオマテリアルズはより広い日本企業とのコンタクトを求めている。日本のカネカ社がPHAのパイオニアとしてすでに市場を開拓してきたが、同社とは競合する関係にはならないという。
「私たちの製造するPHBVは、カネカの製造するPHBHとは特性が異なりますので、間違いなく共存できるでしょう。両方の素材を組み合わせた興味深いブレンドも作れるかもしれません。カネカ社のPHA製造過程では副産物も発生するのですが、私たちはそれを利用してPHAを作るという、より循環型の生産体制を提案することもできます」
ゴミをプラスチックに変える、この革新的技術は幅広い業界に導入でき、非常に大きな可能性を持つ。石油資源が貴重となったいま、このスケール可能な技術を用いれば、圧倒的な先行者利益を得られるだろう。新たな突破口を探す日本企業にとって、またとない共創の機会となる。
「費用が高い」「規模を拡大しにくい」と言われてきたバイオプラスチックだが、石油製品の価格が高騰し、供給が限られる今、成長のチャンスが広がっている。