AI×データ×都市 ─ SCEWC2025で読む次世代スマートシティ戦略

2025年11月4〜6日、都市が抱える課題についてのイノベーションが集結する世界会議「Smart City Expo World Congress(以下、SCEWC)」がスペイン・バルセロナで開催され、138か国・997の都市から約27,000人が参加した。欧州都市の中でスマートシティ政策の先駆けと言われてきたバルセロナに、各国の有識者、企業、自治体、スタートアップの代表者たちが集結した。本記事では、編集部がバルセロナの会場を実際に訪れ、セッションや展示ブースを取材して見えてきた「現地の空気感」と最新トレンドをレポートする。「2050年には世界人口の約7割が都市部に集中する」という国連が発表した予測(World Urbanization Prospects The 2011 Revision)を見据え、持続可能性のある都市づくりに向けた解決策がどのように議論されていたのか。気候変動や人口密集問題への対応が早急に求められるスマートシティ分野の最新動向を、実際の会場で印象に残った事例を中心に、大手企業からスタートアップまで、世界共通の課題に立ち向かう画期的なアイデアとともに紹介していく。

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SCEWCが開催されたFira Barcelona Gran Via 

実験都市バルセロナで開催 社会課題解決に取り組む対話の場

 ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、AIなどの先端技術を活用し、都市インフラやサービスを最適化することで、住民の利便性や生活の質の向上を目指す「スマートシティ」。バルセロナは2014年に「The European Capital of Innovation Awards」をヨーロッパの都市として初めて受賞するなど、スマートシティ政策の先駆けとして注目されてきた。交通やIoTインフラ、グリーンエネルギーの実証実験が現在進行形で行われており、まさに“生きた実験都市”と言える。その実験を担う現地スタートアップへの行政や自治州による公的支援も盛んなバルセロナ。社会課題解決を目指すスマートシティの世界会議が開催される都市にふさわしいと言える。

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投資家、研究機関、約350社の新興企業がつながり、新製品やテクノロジーが展示されたInnovation Playgroundブース

 世界最大規模のテクノロジー見本市であるアメリカ・ラスベガスのCESが「製品・技術発表中心」であるのに対し、SCEWCは「自治体・企業・研究者・市民が政策レベルで議論する」点が特徴で、B2G(企業×政府)やG2G(自治体間協働)のマッチングが盛ん。スマートシティに関する議論は気候変動問題と深く結びついており「効果が期待できるプロダクトを開発する企業とは、すぐにでも関係を構築したい」という意向の自治体が数多く参加している。 展示領域は「スマートモビリティ」「エネルギーと環境」「データとガバナンス」「インフラ・建築」「健康・包摂」「都市生活と文化」「経済と雇用」で、1,190の企業が出展した。

 なお、2025年のSCEWCでは「Resilient Cities(回復力のある都市)」というキーワードが多く飛び交っていた。都市開発に関わるシンガポール、ドイツ、インド、アイルランドの登壇者によるスピーカーによるセッションでは、気候変動や災害で都市機能が低下した場合、どのように回復の道のりを辿っていくかについて以下のような議論が交わされていた。

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行政、公共サービス、インフラ、輸送分野の専門家が意見を交わしたセッション「From Pledges to Action: Are We Ready for Green, Resilient Cities?」 

2025年のSCEWCの傾向

以下、3つの要素が今回のトレンドであると感じた。

  1. 都市開発に欠かせない「エネルギー、交通、インフラ」データを集約・分析するソフトウェア開発
  2. 「スマートモビリティ」をはじめとした都市交通に関するサポート、又はデータ分析技術
  3. 「エネルギー効率化」に向けたサービス開発(ハードウェア×ソフトウェアの複合型)

大手企業のスマートシティ戦略

都市改革の最先端ソリューションを複合出展「AI FACTORY」

 会場で存在感を放っていたのは、グローバルIT企業Dell Technologiesが大手半導体メーカーNVIDIAと共に出展していた「AI FACTORY」ブース。都市のスマート化に向けた先進的なAIソリューションを紹介。デジタルツイン・映像解析分野の先端技術を提供する企業が集結し、自治体や都市開発担当者向けに、自然言語検索・コード生成支援などのサービスが展示されていた。

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グローバルIT企業Dell Technologiesと大手半導体メーカーNVIDIAによるAI FACTORYブース

 その中の1つ、デンマークの「Milestone Systems」は、映像をAIが判別してテキストに変換するシステムを出展。例えば交通事故現場であれば「画面に映るどの車が事故を起こしたのか」「事故前後の周辺環境はどうなっていたのか」といった詳細を文字情報として抽出。レポートを簡単に作成できるため、オペレーターの作業効率化、都市交通分析のためのプラットフォームにデータを統合しやすくなるなど、課題検証フローの強化を目指している。

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Milestone SystemsによるAI映像分析システム。映像内の人・物・動きなどの具体的な状況を自動的に判別、リアルタイムでテキストに変換 

 また、AIを活用した映像分析ソリューションを提唱するイギリスの「Ipsotek」は、セキュリティカメラなど世界中のストリーミング映像から類似するトピックの動画を検索するサービスを展示。44か国以上で事業を展開し、ヘルスケア、セキュリティ分野など17以上の業界にサービスを提供している実績があり、同サービスは都市で発生する同様の問題を比較、検証の手助けとなることが期待される。

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 Ipsotekが発表した画像検索ソフト。都市内のライブ状況の可視化や緊急時の対策検証が狙い 

「ハード+ソフト」で課題解決ツールを提供するセキュリティ企業

 一方、ハードウェア先行型の大手企業も大規模な展示ブースを確保していた。セキュリティ分野の大手、中国のDahua Technologyは最新のカメラ機材を展示するだけでなく「都市の安全、モビリティ、環境保護」への包括的なソリューションを提供する大規模なAIモデルを発表。カメラ、レーダー、IoTセンサーから&集積したデータを複合的に分析し、公共の安全性、都市交通などへの問題理解と解決策を提示する。

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中国の「Dahua Technology」の展示ブース。最新のセキュリティカメラの展示に加え、目玉はAIによるスマートシティ解析ソフトウェア 

「モビリティのスマート化」から都市の未来を予測

 地方都市での無人シャトルバスの導入や駐車場のスマート管理システムなど、モビリティ分野を中心にスマートシティ化に向けたプロジェクトを複数実施しているポルトガルのubiwhere。今年は都市管理の統合的かつ詳細なデジタルマップを提供するプラットフォーム「Urban Platform」を発表。過去の都市データの分析「とAIのサポートによる未来予測で、都市開発の戦略的計画をサポート。すでにポルトガル北西部の都市・ギマランイスでの導入実験が始まり、データに基づいた意思決定が促進されている。

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Ubiwhereはモビリティ、インフラ、エネルギー資源の情報を統合する「Urban Platform」を展示 

スマートシティへ向けたハードウェアを開発する注目企業

Neue Mobilität Paderborn(ドイツ)

 スマートモビリティ分野でユニークだったのは、モビリティエコシステムの開発を行うドイツのNeue Mobilität Paderborn (NeMo)。「NeMo.bilプロジェクト」という、人および貨物の革新的な輸送モデルを設計した。小型の自動運転車両の群れを、長距離走行の際は大型車両の後ろに接続して牽引する仕組み。ユーザーの受け入れ、コスト、CO2排出量などの分野で、従来の交通システムを大幅に改善できる可能性を秘めている。

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人・モノの新しい輸送モデルが期待されるドイツのNeMo.bilプロジェクト 

FINBIN(フィンランド)

 フィンランドの「FINBIN」はIoT連動のスマートゴミ箱を開発。都市部のゴミ収集にかかるコスト削減を提案している。内部構造に特注のプレス機を設置し、ゴミの収容量を120ℓから900ℓに増加させた。さらに上部の太陽光発電で電源を確保し、ゴミの積載データを専用プラットフォームに送信。マップ上で一括管理され「どのゴミ箱にどれだけのゴミが溜まっているか」「今収集が必要なゴミ箱どこか?」をオンライン上で把握することができる。収集車は必要箇所だけゴミを収集すれば良く、運搬にかかるエネルギーコストと人員の削減、さらには交通渋滞の緩和にも貢献することができる。

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ゴミ箱のIoT連動でスマートや収集作業を可能にするフィンランドのFINBIN 

Schréder(ベルギー)

 創業100年を超えるベルギーの老舗照明メーカー「Schréder」はIoT特化型のスマート街灯を出展。この街灯は、円柱型のパーツが連なって構成されている。照明、セキュリティカメラ、スピーカー、充電器など個別の機能を持ったデバイスを繋ぎ合わせて1つの街灯を形作ることができる。都市部の道路や施設のニーズに合わせて街灯をカスタマイズできるので、必要な機能構築とIoTによるデータ収集を可能にする。都市のどこにでもある街灯というハードウェアが、スマートシティのデータ分析を支える縁の下の力持ちとして生まれ変わる可能性を秘めている。

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複数の機能をカスタマイズできるSchréderのスタイリッシュなスマート街灯 

Ekin(ドイツ)

 都市を守る警察やセキュリティ企業の活動のスマート化を促進するのは、ドイツのEkin。パトカーのサイレンやバイクと一体化するカメラデバイスを開発した。走行中の周辺情報を360度撮影できるほか、車両の位置情報を一元管理できるので、パトロールのルートの無駄を省き、違法運転の取り締まりの効率化を実現する。Ekinはドイツで35以上の特許を取得し、40以上のデザイン賞を受賞。日本のセキュリティ対策強化にも転用の可能を秘めている。現在、事業の拡大化に向けてイスタンブール、シュトゥットガルト、チューリッヒ、マイアミにオフィスを展開中。

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複数車両の映像データを統合することで、巡回ルートの効率化を目指すドイツのEkin 

Citizen Dialog Kit(ベルギー)

 都市計画のための情報収集に欠かせない市民調査。オンラインアンケートが増える中、オフラインによる調査キットを開発して成果をあげているのが、ベルギーの「Citizen Dialog Kit」。PC画面大の調査モニター上のシンブルな5つのボタンを操作して、交通インフラなどに関する調査に答えることができる。実証実験のデータで興味深かったのが、オンラインのアンケートに比べ、このキットの設問の方が回答率が増加している点。操作が億劫になるスマホやP Cを開いて回答するよりも、直感的でシンプルな操作性が好評の一因と考えられる。

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シンプルな画面構成とボタンで操作が簡単なベルギーのCitizen Dialog Kit 

VISIBLE CROSSING(ハンガリー)

 スマホ操作などの「ながら歩き」によって、歩行者が横断歩道や線路に気付かぬうちに侵入してしまうことで発生する事故は絶えない。この世界的な問題への解決策が、ハンガリーのVISIBLE CROSSINGだ。危険を察知すると歩行者の足元へ向けて、赤と緑のセンサーを発射し、身の危険を知らせる。音によるアラートはヘッドホン着用者には無意味であり、さらに従来の信号は目線より高い位置にあるため、スマホ画面を見ている歩行者は気づかない。視線が足元に向いていることに着目して開発されたこのデバイスは、欧州8か国で導入されおり、さらなる事業拡大を目指している。

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照度が高いレーザーで昼夜の視認性も高い、ハンガリーのVISIBLE CROSSING 

まとめ

 スマートシティ化を目指した、都市改革の知見が集結した今年のSCEWC。会場に足を運ぶことで世界のスマートシティに関する動向を追いながら、技術連携、そしてアイデアの共有が可能となる。差し迫った気候変動の問題を解決するためには、テクノロジーの導入から最速で効果を得る必要があると感じた。各国の自治体と革新的なスタートアップが交差する“都市の未来を創る現場”として引き続き目が離せない。

グローバル化が進んだことで、文化的背景の異なる国であっても都市が抱える課題が類似していることが、SCEWCの基調講演やセッションで何度も話題に上がった。革新的な課題解決をもたらすプロダクトを生み出すことができれば、こうした集まりの場から、世界各国の都市に一気に伝播するビジネスチャンスを秘めていると感じた。