TechSparks2025|インドの未来と日印連携

インド最大級のスタートアップイベントである「TechSparks 2025」が2025年11月6〜8日までインド・カルナータカ州ベンガルールで開催された。今年で16回目となる本イベントには、インドのテクノロジー関連企業の起業家や投資家(VC)、政策決定者らなど、成長を支える主要なプレイヤーが集結した。会場では、政府が掲げる「India 2030」を見据え、モビリティやフィンテック、公共デジタルインフラなど多様な領域におけるAI活用について議論が交わされた。また、本イベントでは、インド発の注目スタートアップ30社を選出する「Tech 30」も発表され、AI、ディープテック、クリーンテック関連企業が名を連ねた。本記事では、TechSparks 2025の現地で捉えた、インドのテック企業やスタートアップの動向とその先に浮かび上がる同国の未来像と日印連携の今後について紹介していく。

インド最大級のスタートアップイベントTechSparks2025

 本イベントは、インドのスタートアップや起業家を専門に扱うメディア企業であるYourStoryが主催しており、今年で16年目を迎える。会場では、同国テック企業や投資家、政策決定者らによる講演、パネルディスカッションのほか、ブースには、インド国内のさまざまなスタートアップ企業や、同国大手のフィンテック企業でスマホ向けの決済・金融サービスアプリを展開しているPhonePe、AI 向け GPU クラウドインフラを提供するE2E Networksなど、多くのテック企業が出展しており、同国における大きなネットワーキングの機会となった。

「AIをどう使うか」ではなく、「AIを前提にビジネスを組み立てる」時代へ

 ベンガルールのVCであるKalaari Capital創業者のVani Kola氏は、AIが発達した現代においてVCの視点から基調講演を行なった。Netflixが1億ユーザーに到達するまでに3年半かかったことに対し、ChatGPTは数日〜数週間で同規模に到達した例を挙げ、AIは時間を圧縮し、「ビジネスが価値を生み出すまでの速度」が劇的に速まっていると語った。

 また、AIが前提にある社会において、インフラ層となっているLLM開発ではなく、特定分野に特化したVertical AI(垂直統合型AI)にこそインド発スタートアップのチャンスがあることや、表面的に綺麗なアプリケーションではなく、「強烈な技術的優位性」を持ち、桁外れの価値を生み出すことが重要であると語った。

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Kalaari Capital創業者のVani Kola氏による講演「The VC’s compass: Resilience & reinvention in India’s AI decade

WhatsAppが切り開くインドの新たなデジタル経済圏

 Meta社のArzan Singpurwalla氏は「WhatsApp × AI」をテーマに、インドで急速に進む、チャット中心のデジタル化を紹介した。同氏は、これまで企業がユーザとの接点を作る際に、「アプリを作る」ことが前提だったが、現在のインドではその前提が大きく崩れていると指摘する。同社の調査では、インドのユーザは、毎日2時間以上をWhatsAppで過ごし、買い物・問い合わせ・サポートといった行動を、いつものチャットの延長で解決することを求めていると語った。

 その体験を支えるのは、テキストと音声によるAIエージェントである。国内LCC最大手のIndiGoは、WhatsApp上に音声対話型の予約ボットを導入し、「明日、ベンガルールからデリーへ」と話しかけるだけで、フライト検索から支払いまでの自動化サービスを提供している。手数料などの課題を抱えるOTA(オンライン旅行代理店)利用において、D2C(Direct to Consumer)チャネルとしても機能しており、同社はさらにサービスユーザを伸ばす計画をしている。

 金融や行政サービスでも同様の動きが広がる。インド大手の損害保険会社であるTata AIG社は、保険料の支払い通知や更新手続きをWhatsApp上で行えるようにしたことで、従来は紙媒体やコールセンターに頼っていた回収プロセスを大幅に効率化した。これにより、期日遅延によるキャッシュフローの悪化を防ぎつつ、高い回収率を維持する仕組みを構築している。さらに、インド南東部のアンドラ・プラデシュ州では、出生証明、死亡証明や公共料金の支払い等、700を超える行政サービスをWhatsAppから利用可能にし、住民が役所に足を運ばなくても手続きできる環境を整えつつある。

 このように、人口の大多数が利用するWhatsAppは、インド国内における単なるメッセージアプリではなく、国民と企業・行政をつなぐ大きなインフラであると、Singpurwalla氏は位置付けた。同セッションでは、AIを活用したサービスやプロダクトが今後もさらに広がることで、インド発のデジタル経済圏が一層拡大していくとの見方が示された。

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Meta社ビジネスメッセージング担当のArzan Singpurwalla氏

インドにおける有望スタートアップ群「Tech30」の発表

 本イベントでは、毎年注目の国内スタートアップ30社「Tech30」の発表が行われ、今年は2,000社を超える応募から、成長ポテンシャルやサービスの新規性、社会課題へのインパクトなどの観点から選抜された。

 YourStoryによる発表では、今年のTech30は、インドや世界が直面する社会課題に正面から向き合っているソリューションが多いと紹介された。以下に、一部を紹介する。

 これらの企業の多くはAI/ML(機械学習)を中核技術として活用しており、AIが単体のプロダクトではなく、エネルギー・農業・医療・防災といった社会インフラに組み込まれている形で活用されている点も、今年のTech30に見られる特徴である。

Tech30選定企業一覧は、以下のレポートから参照できる。 https://yourstory.com/2025/11/techsparks-2025-tech30-startups-report-powering-india-next-innovation-wave

日印間での今後の更なる連携に向けて

 日本に関連するパネルディスカッションでは、東京都やJETROなどが登壇し、インド企業の日本進出を後押しする姿勢を示し、日印連携が次のフェーズに入りつつあることが強調された。 東京都はスタートアップビザ(最大2年)や補助金などを通して、海外スタートアップが日本に参入しやすい制度を整備している。さらに、海外企業と日本企業の事業連携を目的とした「SusHi Tech Tokyo(2026年4月開催予定)」の主催など、インド企業を受け入れるための体制を整備していることが紹介された。また、JETROは海外企業の日本進出のための、ワンストップ支援やJ-BRIDGEといった連携支援プラットフォームの運営などを行っている。

 その一方で、AI搭載スマートヨガマット「YogiFi」の日本展開を進めるWellnesys Technologiesの創業者兼CEO、Muralidhar Somisetty氏は、制度を活用した後の実務プロセスについて課題を共有。言語の壁に加え、コールドコールへの反応や日本企業との商談調整の難しさを挙げた。また東京都側も、日本企業は意思決定に慎重でコミュニケーションに時間を要する傾向があることを述べた。

 そういった背景から、制度面での支援が整備される一方、事業連携に向けたプロセスには企業間の調整や商習慣の理解が引き続き重要になる点がパネル全体で共有された。

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インドのスタートアップの日本進出に向けたセッション「Tokyo calling: A new launchpad for Indian’s startups」

まとめ

 今年のTechSparks 2025では、AIが単体のツールではなく、モビリティや金融、行政、エネルギーといった産業インフラに組み込まれつつある姿が、随所で示された。大手テック企業やスタートアップが様々な領域で事業を展開している昨今のインドにおいて、テクノロジーがインドをさらに発展させることを感じる今年のTechSparksであった。

AIがインフラ化した現代において、日本もインド同様、特定のドメインに特化したAI開発を通して、強烈な技術的価値を生み出すことが、重要になると考えられる。また、インド企業との協業においては、「どの領域で、どのプレイヤーと組んで取り組むのか」が日本企業にとって重要になるだろう。