2億8千万人の市場でどう勝つか?バリ発「Timedoor」のスケール戦略

インドネシアで教育事業を手掛ける徳永豊は、2億8千万人の巨大市場と人の温かさを強みとしつつ、官僚制や地域格差、制度上の摩擦を警戒する。成功の鍵は“一国集中”で実証モデルを作り、現地で人を育てる組織づくりと徹底したローカライズ、現地で迅速に決める覚悟だ。消費、天然資源、リアルテックが有望領域であり、日本企業には現地権限委譲を促す。

オープンイノベーションが国内外で加速する今、日本企業は“越境連携”によって新たな成長機会を求めている。インドネシアは内需の大きさと若年人口、スタートアップの台頭によって魅力的なビジネスの実験場である一方、現場で直面する文化の差や地域差、官僚制といった壁も顕在化している。

それを明らかにするために、インドネシアで「Timedoor」を創業した徳永裕さんにインタビューした。

東京での安定したキャリアを離れ、バリとジャカルタを往復しながら教育事業とスタートアップ支援を展開する徳永さん。彼がインドネシアを選んだのは、市場の大きさだけでなく「人の温かさ」と「解くべき課題」が両立しているからだ。成功モデルを国内で横展開できる強みがある一方、官僚制や地域格差という現実的な壁も存在する。本稿では、現場でのリアルな判断、教育を通じた人材育成の実践、そして日本企業が見落としがちな「ローカライズ」と「スピード感」について、徳永さんの言葉を軸に掘り下げる。

Timedoorについて

Timedoor(PT. Timedoor Indonesia)は2014年にバリで徳永さんが創業したスタートアップで、インドネシアにおける子ども向けIT教育のパイオニア的存在。独自の教育ブランド「Timedoor Academy」を軸に、バリを起点として、ジャカルタの他、インドネシア国内外へ事業を拡大し、既にスクールを約60拠点に展開。並行して手掛けるWeb/モバイル開発やオフショア開発の事業とかけ合わせ、教育した人材を実務に直結させる“教育 × 開発”の両輪で差別化を図っている。さらに日本語による職業訓練や就労支援といった人材事業を通して、日系企業とインドネシア人材の橋渡しを実践している。

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Timedoorの10周年記念イベント


なぜインドネシアか:「人の温かさ」と「解くべき課題」

日本育ちの徳永さんは、起業の動機として、東南アジアを訪れた際に目の当たりにした「課題の多さ」と「支援の必要性」を挙げる。特にインドネシアは若年層が多い東南アジア最大の市場であり、未解決の社会課題が豊富であることから、「ここにソリューションを持ち込めばチャンスが多い」と判断した。

また、インドネシアを選んで良かった点として「失われつつある人と人とのつながり、助け合いの文化」を挙げる。徳永さんはその温かさに触れ、事業に対する確信と使命感を深めたという。

「温かさを取り戻せた感覚があり、そうした人たちのために事業をしたいと思いました。」

注目セクター:内需、天然資源、リアルテック

徳永さんにインドネシアのビジネスにおける注目セクターを聞いた。

 「内需が大きいので、飲食系やエンターテインメントなど多くの人に受け入れられるコンシューマー向けのビジネスにチャンスがあります。ヒットすればフランチャイズ等で一気に広がる可能性があります。あとは天然資源(ニッケル、コーヒー、パームオイルなど)が多いのも強みで、大きなビジネス領域です。さらに、リアルな産業(鉱業等)とテクノロジーを掛け合わせるリアルテック系も、日本と協業して大きなビジネスになる可能性があると思います。」

つまり、インドネシアで成功するために取るべき戦略は二つ。「巨大な国内市場で広く受け入れられるサービスやプロダクトで勝負する」戦略、そして「インドネシアならではのリソース x テクノロジーで価値を創造する」戦略だ。

強みと落とし穴─:横展開力と市場の不均一性

徳永さんはインドネシア市場の「強み」と「落とし穴」を次のように整理する。

 「強みは、一つの成功モデルを作れば国内の多くの地域に横展開できるスケーラビリティです。スラバヤ、バンドゥン、メダンなど国内各地へ展開できる力があります。一方で、官僚制度や政治的不正があるといった落とし穴があります。また、マーケットの不均一性(富裕層と貧困層の差、ジャカルタと地方の差)が大きく2億8千万人を一括で同じように捉えることが難しいです。例えば教育サービスだとお金を払える層は一部に限られてしまいます。」

そして、日本企業へのアドバイスとして徳永さんが語った。

「日本企業がすぐに複数国へ展開しようとするけれど、まずはインドネシア一国に集中して成功させる方が良い、という点も理解されていないことが多いと感じます。」

マインドセットの転換:「ゼロからやる覚悟」

日本のサラリーマンから、起業家へと転身した徳永さん。インドネシアでの勝ち筋は、言語・文化・宗教への敬意と同時に、結果を出すための規律ある組織づくりだと語る。

 「日本ではサラリーマンだったので、起業家(アントレプレナー)になるという大きなマインドセットの切り替えが必要でした。ゼロからやる覚悟で、インドネシア語を学び、インドネシアのルールや文化、宗教を理解し、どうやって現地の人とコミュニケーションを取ってビジネスを進めるかを学びました。尊敬はしつつもディシプリン(規律)をもって指導するハイブリッドなアプローチが重要だと感じています。」

エコシステム観:急成長の影と未整備のExit

スタートアップ熱の中にも、徳永さんは冷静さを保っている。

 「インドネシアのスタートアップエコシステムは、GOJEKやTokopediaなどで一気に盛り上がりましたが、一方でバブル的な側面もありました。投資の過熱や高バリュエーションが続いたが、社会的インパクトや持続的な構造がまだ十分整っていない部分があると感じます。エコシステムとしては支援の仕組み、IPOやM&Aなどの出口、規制や制度など、全体がまだうまく繋がっていない。」

成長はしているが、Exitや制度が追いついていない。中身を見ずに資金だけを流し込むリスクがある。

チーム運営で驚いたこと:温かさと課題の共存

徳永さんが挙げるインドネシア人チームの特徴は次のとおり。

そのため同氏は外部からマネージャーを採るのではなく、若手から育て上げ社内文化を共有できる人材を昇格させる方針を取っている。

日本企業へのアドバイス:ローカライズ、ネットワーク、スピード感

最後に、徳永さんにインドネシアでのビジネス展開を検討している日本企業にメッセージをいただいた。

 「日本のやり方だけではうまくいかないので、しっかりローカライズすること、現地でのネットワークを作ること、そして現地でスピーディーに意思決定・事業展開を進めることが重要です。日本企業はスピードが遅かったり、本社主導で多数の駐在員を送りがちで、現地に任せきれないケースが多いですが、無駄を省いて現地でどんどん動くべきです。ヘッドクォーターは支援に徹し、現地のルールに合わせて実行していくことが必要だと思います。」

要は覚悟。現地に権限を与え、意思決定の速度を上げる組織文化を本社が迅速に構築できるかどうかが成功の分かれ目である。


まとめ

  1. インドネシアは「スケールできる国内市場」を持つが、地域差と制度リスクを見極める必要がある。
  2. 消費・天然資源・リアルテックは有望領域。教育のように料金負担可能層が限定される分野は戦略が重要。
  3. 成功には言語・文化・宗教の理解、現地人材の育成、そして現地での迅速な意思決定が不可欠。
  4. 日本企業は「まず一国で勝つ」ことを優先し、本社は支援に徹して現地へ権限委譲すべき。

徳永様にインタビューでき、自分にとって大変嬉しい経験でした。彼の語る話を聞き、日本人起業家という視点を通して自分の経験と重なる部分を感じられ、特に「スケーラビリティ」の面においてインドネシア市場への期待が一層強まりました。徳永様のようにインドネシアを選んだ起業家に感謝しており、より多くの日本企業や投資家がこの市場に目を向けてくれることを期待しています。